稲子岳 南壁左カンテ


2020年1月31日(金)
まーしーと稲子岳南壁の左カンテを登りに行ってきました。

今から2年半ほど前、2017年の7月にヒロさんと一緒に同じルートを登ったことがありますが、前に来たときと違って今回は厳冬期なので、クライミングシューズではなくアイゼンの前爪を使って、ホールドを掴むのも素手ではなくアックスを使ってドライツーリングで登ります。

写真はしらびそ小屋にて、ミドリ池の向こうに見える天狗岳。



南壁までのアプローチは、前回は中山峠までの登山道の「中山峠まであと40分」の看板のところからトラバースして入っていきました。
今回はトラバースではなく、登山道の近くに南壁が見えるようになってきた辺りの、樹林帯のなるべく木が少なそうなところから南壁に向かって真っすぐラッセルしていきました。



2〜3日前にまとまった降雪があったようで、深いところでは腰まで埋まるほどの深さ。
四つん這いになったり、アックスや手を使ったり、木を掴めるなら木を掴んだり、なるべく沈まないように色々やってみましたが、やっぱり進む為に大事なのは足の動かし方。
大きく一歩前に踏み込んで、ジワっと立ち込んで後ろの足を引き抜いて、また大きく前に一歩踏み込んで、という感じで繰り返していきます。
一歩一歩の動作のやり方ももちろん大切ですが、それ以上に大切なのは、どのラインを進むのかということ。
木の密度が濃いところだとラッセルが大変だったりもするし、パっと見た感じ同じような雪面に見えても、何故か雪が固くて全然沈まないで歩けたり、ずっぽりハマってしまって抜け出すのが大変だったりということがあるので、ただただ真っすぐ進むのではなく、目の前のいくつかのラインの中から比較的進みやすそうなラインを選んで、時には迂回したりもしながら、奥に見える南壁もちょいちょい見て、左カンテの辺りを目指して進んで行きます。



そうしてラッセルを続けること2時間余りで、何とか無事に左カンテの取り付きに到着。

去年の冬はラッセルするとすぐにバテてしまっていたので、今シーズンは11月頃から近所のスポーツジムの契約をして、週に2回レッグプレスマシンで太腿の筋肉を鍛えまくってきました。
今回はずっと僕がトップでラッセルしましたが、ペースを落とすこともなく最後までラッセルを続けることができたので、トレーニングの成果はそれなりに出ているのかなと思いました。

いよいよここから登攀開始です。



1ピッチ目のスラブは僕からスタート。
結構雪が積もっているので、手やアックスを使って雪を払いながら、アイゼンで立てそうなスタンスや、アックスのピックを引っ掛けられそうなエッジを探して、慎重に登ります。

ちなみに今回は、今後の為のトレーニングも兼ねて、幕営装備も担いで登りました。



なかなか大変でしたが、1ピッチ目は無事に突破。
僕はこないだ登った阿弥陀北西稜で初めてドライツーリングを経験したので、今回が2回目のドライツーリングにして、初めてのリードでの登攀でした。

細かいエッジにピックを掛けて体重を掛けるのは、手でホールドを持つのとは違って「持ち感」がよく分からないので、とても怖い。
こないだの北西稜では、体重を掛けた瞬間にピックが横すべりして外れてしまうということがあったので、体重を掛けていくときは特に慎重に、スロービデオのような動きでじわじわと登ります。



2ピッチ目はまーしーがリード。

1ピッチ目を登り終えた直後は体が暖まっていたので、ビレイパーカーを着なくても大丈夫だろうと思ってそのままビレイを始めましたが、この日の気温はマイナス10度程度となかなかに寒く、ほどなくして手足の指先がジンジンと痛み始めました。

ビレイ中に体が冷えないようにとビレイパーカーをいつも持ってきてはいますが、リードで登ってビレイ点を作ってから「登ってください」のコールをかけるまでの一連の流れの中で、ビレイパーカーをザックをから出して羽織るという動作をいつも忘れてしまい、結局取り付きからの1ピッチ目のビレイのときしかビレイパーカーを羽織ってビレイをしたことがありません。

ビレイ中にビレイパーカーを着たり厚手のグローブに変えたりしたい場合は、ビレイ点での作業の中でスムーズにその動作を組み込めるよう、事前の準備と段取りをきちんと考えておかないといけないと思いました。



2ピッチ目をフォローで登る僕。

登り始めるときに、ビレイ点を作るのに使っていたトライカムが外れなくなってしまい、ナッツキーも持っていなかったので、10分以上もの間、ひたすらトライカムをガチャガチャ動かして外そうと頑張りました。
何かナッツキーの代わりになるものはないかとギアラックの装備を見て、ハーケンを使ってトライカムを突っつこうとしましたが、ハーケンの先端がギリギリ触れるぐらいの距離で、あれこれ試しても全く外れる気配がなく、一人で泣きそうな気持ちになりました。

僕が途方に暮れ始めた頃、上に居るまーしーから、アックスを使って外すようアドバイスがあり、あーそっかと思ってアックスを使って回収を試み、無事にトライカムの回収に成功。
この日一番嬉しかったのはこの瞬間だったかもしれません。



そして3ピッチ目は僕がリード。
左右にクラックがあり、どちらからでも登れそうではありますが、より簡単そうに見えた右のクラックを登ることにしました。

しかし登ってみると見た目よりも難しく、なかなかに苦戦。



長い闘いを終えて、ようやく核心を突破した僕。



フォローのまーしーも無事に登ってきて、いよいよ残すところは最終ピッチのみです。



最終ピッチはまーしーがリード。

時間に余裕があれば正面のクラックから登りたいところですが、ここまでで結構時間がかかっていたので、左から回り込んで簡単そうなルンゼを登ることにしたまーしーでしたが、ルンゼの中に入って僕から全く見えなくなったところで、登るペースがかなりゆっくりになりました。

姿が見えなくて状況が分からないので、心配しながらビレイを続けてましたが、少しずつロープは伸びていき、やがてビレイ解除のコールが聞こえました。



そして僕もフォローで最終ピッチを登攀。

遠目には簡単そうに見えたルンゼでしたが、登り始めると、プロテクションを取れるところはろくにないし、意外と傾斜も強いし、何より岩が脆い。
まーしーの奴、よくこんなところリードで登ったなぁと思いながら登りましたが、抜け口の手前のトラバースがこれまた怖く、這い上がるように頂上へ出ました。



頂上から見える天狗岳。

たった4ピッチの短い登攀でしたが、どのピッチもそれなりに難しくて、面白かったです。
今日一日でドライツーリングの経験値をかなり積むことができたように思います。

夏に登ったときの感じから、取り付きから頂上までは2時間ぐらいで行けるだろうと思っていましたが、予定の2倍以上の時間がかかってしまい、頂上に着いたときはもう16時過ぎになっていました。

下降の道を少し歩いて下ってから懸垂下降で岩壁の基部まで降りて、その場から登山道の方へ向けてラッセル開始。
下りはまーしーがほとんどラッセルをやってくれましたが、暗闇の中でヘッデンを使ってのラッセルだったせいか、気が付いたら密林の中に入り込んでしまって、動きにくいし深く沈むしでなかなか進めず。

ヘッデンで進む先を照らして、比較的進みやすそうなところを選んで右に行ったり左に行ったりしているうちに、進んでる方向がよく分からなくなってくるので、ときどきコンパスで方向を確認。
南壁を背にして南に進み続ければ必ず登山道に出るはずと思っていましたが、進めども進めども登山道が出てきません。

時計を見るともう18時40分。
ちょっとそろそろマズイということで、掟を破ってGPSで現在地を確認してみたら、なんと現在地は登山道の上の表示。
ひょっとしてそこに見えてるの登山道じゃね?ということでさらに10mほど進んでみたら登山道に出ました。

南へ進み続ければ必ず登山道に出るはずという確信はありましたが、それでも実際に登山道に出たときの安堵感はとても大きく、歓声を上げてまーしーと喜びを分かち合いました。



そこから先は、暗闇の中の密林のラッセル地獄とは打って変わって、まさに高速道路を走るかのように快足を飛ばし、1時間ほどで駐車場まで帰りました。

帰りが大分遅くなってしまいましたが、終わってみれば色々と楽しい経験ができて、充実した山行でした。


今回のルート(GPSログは取ってなかったので適当です)


6:55 ミドリ池入口
↓ 1時間25分
8:20 しらびそ小屋
↓ 35分
8:55 登山道を外れてラッセル開始
↓ 2時間1分
10:56 左カンテ取り付き
↓ 5時間27分
16:23 南壁の頂上
↓ 2時間21分
18:44 登山道に復帰
↓ 1時間4分
19:48 ミドリ池入口
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